引越しは、単身者の場合でも、数万円のお金がかかります。家族での引越しとなると、さらに多くの費用がかかることになります。
多額の引越し費用を軽減する助けとなるのが、行政が設けている助成金・補助金や、勤務先からの手当です。
この記事では、それらの手当・助成金・補助金の種類と、相場について解説します。
行政が設けている引越しに関する助成金
行政が設けている様々な助成金や補助金の中には、例えば結婚などのライフステージの変化や転入など、引越しが関係する事柄に対応したものもあります。
この記事では、「結婚新生活支援事業」や「住宅確保支給金」など、代表的な例について紹介します。
ただ、これから紹介するものの他にも、行政が設ける助成金や補助金には様々なものがあるので、引っ越しを検討している人は、引越し先の自治体の制度をよく調べてみることをおすすめします。
結婚新生活支援事業
「結婚新生活支援事業」は、結婚する人の新生活に関する諸費用(家賃や引越し費用など)の負担軽減を目的とした、国が実施している事業です。
この事業には、国と自治体が連携する「都道府県主導型市町村連携コース」と、「一般コース」の2種類があります。
前者は導入している自治体が限られており、一般コースとは補助上限額も異なります。
都道府県主導型市町村連携コースが導入されている自治体では、そちらを選ぶのが一般的です。
一方、導入されていない自治体では、必然的に一般コースを選ぶことになります。
補助金額
コース | 補助率 | 補助上限額 |
---|---|---|
都道府県主導型市町村連携コース | 3分の2 | 夫婦ともに29歳以下:600,000円 それ以外:300,000円 |
一般コース | 2分の1 | 300,000円 |
前述の通り、都道府県主導型市町村連携コースは導入自治体が限られているので、自分が住む自治体で利用できるコースについては、事前に確認しておく必要があります。
条件
支給を受けるための条件は、以下の通りです。
- 2022年1月1日から2023年3月31日までに入籍した世帯
- 夫婦の所得の合計が4,000,000円未満(おおよその世帯収入が5,400,000円未満。奨学金を返済している場合は、年間返済額を所得から控除)
- 夫婦の婚姻日時点の年齢が39歳以下
- その他、住んでいる市区町村が定める要件を満たす世帯
以下の費用、すなわち新居や引越しなどに関するものが、補助の対象になります。
- 婚姻に伴う住宅の取得
- 住宅リフォームや住宅賃借
- 引越し
支給を申請する際には、領収書など、証明できる書類を用意しておく必要があります。
申請の流れ
支給の申請は、市区町村へ婚姻届の提出を終え、結婚にかかる費用を全て支払った後になります。
申請(請求まで)の流れは、市区町村によって若干変わることもありますが、概ね次のようになります。
- 入籍し、補助の対象となる費用を支払う
- 必要書類を提出する
- 交付決定兼確定通知を受け取る
- 補助金を請求する
申請に必要な書類は、次の4種類です。
- 申請書・誓約書
- 婚姻していることの証明書(婚姻届受理証明や住民票など)
- 住居に関する証明書類(住宅の売買契約書や賃貸借契約書など)
- 事業の対象となる支払いを証明できる書類(領収書など)
申請から支払いまでの期間は、通常1か月程度となります。
なお、自治体ごとの本事業の予算が消化されてしまうと、補助が受けられない場合もあるので、申請を希望する場合は、できるだけ早く行うことをおすすめします。
住宅確保給付金
「住宅確保給付金」は、離職・廃業の後に引越しせざるを得なくなったものの、その費用にも困っている人を支援するために、給付されるものです。
補助金額
家賃相当額の全部または一部を、原則3か月、最大9か月支給されます。
但し、給付される金額は、市区町村や世帯構成によって異なります。
条件
以下の条件に当てはまる場合、給付対象となります。
- 世帯で主たる生計維持者となる人が、「離職・廃業後2年以内」もしくは「給与などを得る機会が離職・廃業と同程度まで減少している」場合
- 直近の月の収入合計が、基準額(市町村民税の均等割が非課税となる12分の1の金額)と家賃の合計を超えない場合
- 世帯の預貯金が、各市区町村が定める金額を超えず、なおかつ1,000,000円を超えない場合
- 求職活動を誠実かつ熱心に行っている場合(例えばハローワークへの求職申込みをするなど)
申請の流れ
住宅確保給付金に関する相談や申請は、市区町村に設けられた「生活困窮者自立支援機関」(厚生労働省のウェブサイト)で行います。
住宅ローン減税
「住宅ローン減税」も、新居を持つこと、すなわち引越しに関係した減税と言えます。
助成金や補助金が直接給付されるものではありませんが、ローンで家を購入することによって、所得税や住民税の控除を受けることができます。
補助金額
住宅ローン減税の適用を受けた場合、所得税から0.7%が控除されます。
所得税だけで控除しきれない場合は、さらに住民税から一部が控除されます。
条件
住宅ローン減税を受けるための条件は、以下の通りです。
- 減税を受ける人の居住用住居であること
- 原則、床面積が50㎡以上であること
- 中古住宅の場合、耐震性能があること
- 10年以上のローンであること
- 所得が30,000,000円以下であること
- 増改築等の場合、工事費用が1,000,000円以上であること
上記の通り、この制度は中古住宅にも適用されるので、「持ち家=新築」という先入観を抱きがちな人も、この制度は中古住宅の購入を検討する材料になるでしょう。
ローンを組みつつ、新築・中古問わず「持ち家」を購入して引越す人は、検討すべき制度と言えます。
なお、住宅ローン減税には、これまで紹介した補助金や助成金とは異なり、申請するための特定の手続きはありません。
上記の条件を満たした場合、確定申告の時に住宅ローン減税を適用する旨を、申告することになります。
東京都新宿区の助成金
ここからは、都道府県や市区町村などの自治体が設ける制度について、幾つか紹介します。
最初に紹介するのは、東京都新宿区の「民間賃貸住宅家賃助成」と、「次世代育成転居助成」です。
「民間賃貸住宅家賃助成」は、民営のマンションやアパートに住む、子育て世帯を支援するためのものです。
ただ、募集数に対して応募者数が多い場合は抽選となるため、必ず助成を受けられるとは限らないことは、承知しておかねばならないでしょう。
2021年度の場合、月額30,000円が助成されましたが、募集数に対する応募者数は4.2倍という高い倍率でした。
一方の「次世代育成転居助成」は、新宿区在住の、義務教育修了前の子どもがいる世帯が、同区内でより良い住環境へと移るための助成です。
次世代育成転居助成では、転居前後の家賃差額(月額最大35,000円)と、引越し代の実費(最大100,000円)が助成されます。
こちらも年度ごとの募集世帯数に制限があり、年度内で分割された募集期間ごとの、先着順となります。
愛知県の「愛知県移住支援事業」
愛知県の「愛知県移住支援事業」は、東京23区から愛知県への移住者に支援金を支給することによる、UIJターンの促進を目的としたものです。
東京23区内に在住、または東京圏に在住し東京23区に通勤していたことが、支給の条件となります。
世帯には1,000,000円、単身には600,000円が支給されます。
福岡市の「子育て世帯住替え助成事業」
福岡市の「子育て世帯住替え助成事業」は、新宿区の助成制度と同様に、子育て世帯がより良い住環境へ移ることを支援するための事業です。
住替え費用の合計の2分の1(最大150,000円)が助成されます。
さらに、親世代との同居・近居や多子世帯の場合は、上記の上限額に5万円を加算した額が、上限額となります。
助成金の対象になりやすい人
行政による助成金・補助金の場合、ここで示すような「対象になりやすい人」が存在します。
一人親家庭
一人親家庭、特に母子家庭は、必要な収入の確保が難しいことも多いため、国や自治体から助成金・補助金制度による支援を受けることがあります。
市区町村による支援で代表的なものは、母子(父子)家庭を対象とした住宅手当です。
新婚の人
前述のように、国が設けている「結婚新生活支援事業」では、新婚の人を支援の対象としています。
自治体が結婚支援事業を設けているケースも数多くありますので、お住まいの地域の行政がどのような取り組みをしているか、チェックしてみることをおすすめします。
子育て世帯
子育て世帯は、良好な住環境の確保のみならず、教育や日常の生活にも相応の金額がかかります。
そのため各市区町村では、様々な助成金や補助金制度を用意し、重点的に支援を行っています。
高齢者・障がい者
高齢者や障がい者のために、公営住宅への入居の支援をしている自治体もあります。
新居への住替えをしやすくするという点で、これも行政による、引越しに関係した支援と言えます。
親世代との同居・近居を検討している人
現在は核家族化によって、高齢の夫婦のみ、あるいは高齢者が一人だけで暮らすことは普通のことですが、その一方で生活に支障が出たり、病気の発見が遅れて重症化したりする問題も起こっています。
これらの問題を防ぐために、多くの自治体では、親世代との同居・近居を促進するための助成金・補助金を支給しています。
その一例が、前述した福岡の「子育て世帯住替え助成事業」です。
収入が低い人
今回紹介した助成金・補助金の多くは、定められた条件以下の収入の人を、支給の対象としています。
前述の「住宅確保給付金」のように、低所得であることが第一条件のものもあります。
勤務先から支給される手当
会社員や公務員は、転勤や異動に伴う引越しのための手当が、勤務先から支給されることがあります。
ここでは、多くの組織で支給される一般的な手当について、解説します。
単身赴任手当
「単身赴任手当」は、家族と離れて単身で転勤先へ引越しをするときに、支給されます。
企業によっては、「子どもの転校が困難」や「介護が必要な家族がいる」、「配偶者が働いている」、あるいは「持ち家がある」など、単身赴任せざるを得ない理由を、支給の条件として定めていることもあります。
ただ、そもそも単身赴任手当がない企業もあるので、該当する手当があるかどうか、就業規則をよく確認しておく必要があるでしょう。
民間企業の場合は、月額30,000〜50,000円程度が支給(厚生労働省の「就労条件総合調査」を参照)されている模様です。
国家公務員の場合は、月額一律30,000円に、転勤先までの距離に応じた8,000〜70,000円の加算額が支給されます。
転勤支度金
企業によっては、転勤に関する諸経費を補うための「転勤支度金」を支給することもあります。
支給額は企業によって異なり、また引越しの距離や役職などによっても、数万〜数十万円と大きな幅があります。
しかし、勤務先に転勤支度金の制度がない場合もありますので、やはり就業規則の確認や人事担当者などへの問合せは必須と言えます。
遠方から新卒で入社する社員は?
遠方から新卒で入社する社員については、研修を受けた後に遠方の勤務地に配属される場合、「転勤」扱いで手当が支給されることがあります。
企業ごとの就業規則によりますが、引越しの初期費用(運送費や敷金礼金など)の全部あるいは一部が支給されます。
ただ、手当が出るかどうかは企業ごとの就業規則によりますので、勤務先の人事担当者などに、直接問い合わせておくことをおすすめします。
まとめ
- 国が設けている引越しに関する助成金・補助金の代表例としては、「結婚新生活支援事業」や「住宅確保給付金」がある
- 直接の給付ではないが、ローンによる新築・中古住宅の購入の場合には、条件が合えば「住宅ローン減税」が適用できる
- 地方自治体も、地域内での住替えや子育て支援、UIJターン促進などで、助成金・補助金を支給している
- 結婚などライフステージに変化があった人、子どもや高齢者などが家族にいる人、そして低収入の人は、助成金・補助金支給の対象になりやすい
- 引越が必要となった場合、勤務先から「単身赴任手当」「転勤支度金」などが支給されることがある
- 新卒の入社で引越しが必要な場合も、「転勤」扱いで手当が支給されることがある
このように、引越しに伴う諸経費を軽くすることができる、助成金・補助金や手当は、様々なものがあります。
ただ、いずれの場合も支給の条件は細かく定められており、いざ申請しようとしても、なかなか分かりにくいところもあるでしょう。
国や自治体の助成金・補助金については、行政の窓口で確認してみることをおすすめします。
勤務先で支給される手当については、就業規則を確認したうえで、総務あるいは人事などに確認、相談すると良いでしょう。
これらを上手に活用することで、引越し費用の全額をまかなえることもありますので、引越しの予定がある人は、申請を検討してみてはいかがでしょうか。
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