都市から地方への移住を検討する際、一番気になるポイントはその費用と思います。
一般に、地方における生活コストは都市部よりも安いイメージがありますが、その具体的な金額を実際に比較検討された方は稀なのではないでしょうか。
そこで本記事では、地方移住に要する費用を世帯人数別に明らかにし、さらには引越し等にかかる費用の節約方法についても紹介していきたいと思います。
地方移住の費用
一言に地方移住の費用といっても、その内訳は多様です。例えば主要なものとして引越し代、住居費、自家用車の購入費が挙げられるでしょう。
そこで、以降はこれら費用を中心として、世帯人数別に必要なコストのケーススタディを見ていきましょう。
ケース①|単身者の移住費用
結論として、単身者における地方移住の費用は26~60万円が相場です。
なお、この内訳は引越し代が8~18万円、住居費が28~42万円となります。※あくまで目安です
このほか自家用車を保有していない方は、その購入費用として別途50万円~70万円の追加コストを見積もっておくのがよいでしょう。これは地方では公共交通機関が不十分な場合が多く、生活インフラとして自家用車が必須となるためです。
引越し代
この引越し代の相場は幅広く、移動距離や荷物量、さらには繁忙期によって料金が変動します。例えば、通常は900km以上の長距離移動で料金は約8万円ですが、荷物の量によっては10万円に増額する場合があります。
さらには、年度末といった繁忙期では上記の料金がそれぞれ12万円、18万円ともう一段階高額になるのが通常です。
よって遠方へ異動する際には、できる限り繁忙期を避けるのが重要な節約ポイントとなります。
住居費
住居費で最も出費がかさむのが初期費用です。これは家賃4~6カ月分が相場となります。
もちろん築年数や入居タイミングによっても異なりますが、例として家賃7万円の物件では、約28~42万円が初期費用の相場となります。
なお平均的な初期費用の内訳は、敷金が家賃の約1.2カ月分、礼金が同0.9か月分で、これに前払いの家賃1~2か月分が別途必要となります。
このなかで相場が一定していないのが敷金と礼金です。この2つは物件により不要であったり、逆に2~3カ月分を要する場合があります。
さらに留意したいのは、上記の項目に加えて仲介手数料が必要であり、家賃0.5カ月分がその相場となっています。
このほか、初期費用には管理費、共益費および賃貸保証料がそれぞれ約0.5~1カ月分、そして入居者負担の鍵交換費用の2~3万円、火災保険料2万円です。
また任意のオプションとして部屋の消毒処理代1~2万円も存在します。
これらすべての積算が、最初に結論した家賃4~6カ月分となるのです。
自家用車の購入費用
先に述べたように、地方では車が必須のインフラとなるケースがあります。
もし車を保有しておらず新たに購入する際には、移動前にその費用を見積っておくことが重要でしょう。
というのも車の購入には、車体以外にもランニングコストである燃料代、保険代、税金や車検代といった長期的な視点と資金計画が必要となるからです。
よって、自家用車の購入を要する場合には約50万円~70万円を計上しておくのがよいでしょう。
ケース②|2人家族の移住費用
2番目のケースは2人家族の地方移住です。この場合、相場は60~90万円となります。
この内訳は引越し代が20~30万円、住居費が40~60万円です。
また、自家用車がない場合は50万円~70万円の追加費用を要するので注意が必要です。
引越し代
長距離の引越しを2人家族がするケースをみてみましょう。この際の相場は約20万円です。ただし、繁忙期の場合には30万円と高額になります。
先の単身のケースと比較して金額にかなりの差がありますが、これは家財類が多くなることが主因です。
住居費
2人家族のケースでも初期費用の考え方は概ね同じです。つまり、家賃の4~6か月分を見積るのがよいでしょう。
当然ながら2人分の居住空間が必要なことから、家賃は単身者よりも高額となり、それに伴って敷金、礼金、仲介手数料も上がります。
例として、家賃10万円の物件を選んだ場合には、初期費用の相場は40~60万円となります。
自家用車の購入費用
先に述べたように、2人暮らしの場合でも地方移住に伴って自家用車が必要なケースが大半です。
ここでポイントとなるのが車体のサイズですが、コンパクトな空間で許容できる場合には単身者と同様に50万円~70万円の見積りでよいでしょう。
ただ長期的な生涯設計を鑑みた際、出産といったイベントで家族が増える場合には、ファミリーサイズの車も選択肢に挙がることでしょう。
この際には見積額が80~100万円となるので、しっかりと準備しておきましょう。
ケース②|3人家族の移住費用
最後のケーススタディは、3人家族が地方移住する場合です。この際の相場は87~125万円となります。
内訳は引越し代が27~35万円、住居費が60~90万円です。
先と同様に、自家用車がない場合には別途70万円~100万円の購入費用も見積もっておきましょう。
引越し代
3人家族における長距離の引越し相場は27万円となります。これは通常期のケースで、繁忙期だと35万円と割高になります。
また、この世帯は子供の成長に伴って家財の量が多くなる傾向があることに留意しましょう。
住居費
当然ながら、3人家族は上述の1~2人世帯と比較して居住空間が増え、住居費が高額になる傾向があります。ただし、初期費用は家賃4~6カ月分が相場という点は同様です。
つまり、家賃15万円の賃貸を想定した場合、その初期費用は60~90万円となります。
特に敷金および礼金の負担が重くなることから、これらが減免されている物件を選択したり、築年数にこだわらずに家賃自体を抑えるといった視点も重要となるでしょう。
自家用車の購入費
3人世帯の場合、自家用車による長距離移動の機会が多い傾向があり、ファミリータイプの車がおすすめとなります。
これに伴い、車の購入費は100万円以上を想定しておくことが重要です。もちろん価格はメーカー、サイズといった車体スペックに依存しますが、初期費用を節約するのであれば中古車といった選択肢も考慮する必要があるでしょう。
「地方の生活費は安い」は本当か?
地方移住の前後では、生活費の各種項目に変化が生じます。
例えば、家賃、食費および日用品などのコストは安くなる傾向がありますが、一方で水道光熱費は居住先の自治体によるためケースバイケースとなります。
このほか、通信費、娯楽費、税金といった項目にも変化があることでしょう。
それでは、これら項目ごとに詳細をみてみましょう。
家賃
都市部と比較すると、地方の家賃は安い傾向が認められます。
実際、「平成30年住宅・土地統計調査 (総務省統計局)」によれば、家賃相場1位は東京の81,001円に対し、10位の宮城県は48,894円と明らかな差がみられます。
このことからも、家賃に着目した場合には地方移住には大きなメリットがあると言えるでしょう。
自家用車のコストおよび交通費
一方で、自家用車のランニングコストおよび交通費においては、地方移住でコスト高となるケースがあります。
なかでも負担が大きいのは車の維持費です。特に、地方移住に伴って新規に車を購入された世帯ではローン・自動車税および車検代といった、これまで家計に計上されてこなかった項目が家計に少なくない影響を与えることでしょう。
食費
一般に、都市部と比較して地方では食費に関する物価が低いとされています。
この恩恵は世帯人数に関わらず受けることができ、概算では都市部と比較して2~3割の食費減の効果が得られるようです。
日用品コスト
食費と同様に、日用品も相対的に安価とされています。すなわち、家計のうち食費・日用品といった必需品のコストが抑えられる点が地方移住のメリットと言えるでしょう。
水道光熱費
上述したとおり、水道光熱費のコストは気象条件や自治体によって多様です。例えば、豪雪地・寒冷地といったネガティブな気象条件が重なると、暖房費がかさむといった点で都市部よりも高額となります。
さらに極寒地では対凍結対策用に特殊な配管といったインフラ代、燃料コスト増といった各種コストが水道光熱費となって家計に反映されるでしょう。
その一方で、太平洋側といった比較的降雪量の少ない地方であれば、都市部と同程度の水道光熱費となるケースもあります。
通信費
通信費は自家用車と同様に、地方の方が高くなる傾向にあります。
これはモバイルルーターをはじめとした格安通信の対象エリアが人口密集地に限定的なためです。自治体単位ではエリア内であっても、ローカルな場所ごとに通信環境が悪く、結局使えない場合もあるということです。
今後、アンテナ設置状況等に改善が進めばこの格差は縮小すると思われますが、しばらくは地方が不利な状況という認識でよろしいでしょう。
なお、総務省が実施した家計調査によると、都道府県によっては通信費の平均支出に約1.5~2倍の差があるとのことです。
交際費・娯楽費
交際費および娯楽費については個人差が大きいものの、概ね地方の方が安価という傾向にあります。
これは物価の差であったり、娯楽施設の充実度といった要因が背景にあると思われます。
社会保険料
社会保険料の負担率は都道府県によって異なります。そして残念ながら、一般的に地方では都市部と比較して高額となる傾向があります。
なかでも北海道はこの負担率が特に高く、介護保険第2号被保険者に該当しない場合は10.45%、該当する場合は12.25%となっています。
これに対し東京ではそれぞれ9.84%、11.64%といずれも低い割合が設定されています。
こうした事例があることから、地方移住の前に居住候補の自治体について社会保険料の負担率をあらかじめ把握しておくのがよいでしょう。
税金
税金の中でも住民税においては、地方のほうが高額となる場合が多い傾向にあります。
ただし、この差は年間にして千円から二千円といったわずかなものです。
むしろ留意したいのは地方自治体ごとに設定している独自の環境税であったり、その財政状況です。
特に後者は住民に対して超過課税を設定しているケースもあるため、都市部と比較してトータルの負担額が大きくなる場合に注意しましょう。
生命保険料
一般的に、生命保険およびそれに関連の高い医療費は、地方の方が1~2割安いといわれています。
ただし、都市部と比較して地方には先進医療といったインフラ面で劣るケースもあることから、個々人が必要とする医療体制を踏まえた上で移住先を選定することも重要でしょう。
移住費用を節約するには
ここまでは移住費用の具体的な金額に触れてきましたが、世帯数や引っ越しのタイミングなど、条件によっては決して安くないケースもみられました。
そこで、移住費用のトータルコストを節約するべく、一度は検証しておきたいポイントを紹介していきたいと思います。
引越しに不可欠の相見積り
引っ越し代を節約するうえで一番大切なことは相見積もりを取ることです。
先述したとおり、引っ越しのコストは繁忙期や荷物量などにより相場感がつかみにくい特徴があります。このため、複数の業者から相見積りを取ることで、価格面だけでなく自信が求めるサービスを提供してくれる一社を見つけることが可能となるのです。
さらに、この相見積りの書類を応用すれば、サービスが充実した引越し業者に対して価格交渉に持っていくことも可能となります。
大型家財は現地調達
大型家財の現地調達も引っ越し代の節約となります。例えば、大型のタンスや冷蔵庫などを長距離運搬する場合、業者の手配するトラックが大型化したり、作業員数が増えます。そしてこれらは見積金額に影響します。
よって、運搬料と新規購入費とを比較検討し、大型家財の事前処分および現地調達というサイクルを取り入れることをおすすめします。
これにより、特に長距離における引越し費代が節約できることでしょう。
中古自動車のすすめ
地方移住に伴って自家用車を購入する場合ですが、ここで新車を選択すると数百万円のコストがかかります。
よって、移住コストの節減を重視する場合には中古車一択と言えるでしょう。
中古車は状態にもよりますが、10万円から購入できることがあります。しかしながら、地方では不可欠な生活インフラとして利用するため、長期利用および安全面を鑑みて車体が30万円以上のものを選択するのがよいでしょう。
公営住宅のすすめ
移住コストの節減に効果的なのは公営住宅です。これは一般に賃貸住宅と比較して賃料が安く、敷金および礼金についても優遇されているケースが多くみられます。
実際、家賃相場が民間の1/2~1/3程度という事例もあることから、家計の一助として有効な選択肢といえるでしょう。
欠点としては、こうしたメリットにより空き物件が見つかりづらいこと、そして世帯収入といった入居条件が設けられているケースがあることです。
いずれにせよ、早めにリサーチをかけておくことが重要と言えます。
補助金のすすめ
自治体によりますが、地方移住のメリットとして補助金制度が整備されているケースがあります。これらは適応条件もさまざまですが、もし該当する場合には家計の大きな助けとなるため積極的に活用したいところです。
例として兵庫県洲本市では、特定公共賃貸住宅に3か月以上居住することで最大3万6千円/月の家賃助成金を受けられます。
このほか、岡山県鏡野町では20年間の居住により定住促進住宅の無償提供という制度を設けています。
こうした地方移住に係る施策は実に多様で、また期間限定的なものもあることから、日頃より有益情報のアップデートをしておくことが重要となります。
生命保険を見直し
地方移住をきっかけとして実施したいのが生命保険の見直しです。
生命保険の効率的な利用法はライフステージごとのこまめな見直しであり、生活の場が変化する地方移住もそのひとつのイベントといえます。
毎月の住居費や車のローン、こうした家計の変化に合わせた保険の整理をすることが、短期的にも長期的にも移住コストの削減つながることでしょう。
まとめ
以上のように、ここでは地方移住のコストおよび節減について紹介しました。
- 地方移住のコストには引越し代、住居費、自家用車購入などの項目がある
- 都市部と比較して高額になる項目があることに留意する (水道光熱費、車の維持費、住民税など)
- 移住時のコスト節減には引越し業者の相見積り、中古車の選択、補助金の活用などがおすすめ
一般に、地方移住は生活費が安いというイメージが強いですが、ここで紹介したとおり都市部よりも割高となる項目があります。
家計への負担面から地方移住を検討する場合、各種項目の要素の検討が必須であり、また利便性といった時間的コストも加味したうえでの判断が大切といえるでしょう。
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